今回は、2日間に亘る、日高パンケヌシ川の惨敗を受け、遡ること約20年前に、一度だけ行って、めちゃめちゃ良い思いをしたことのある島牧の川を責めることにした。
何と言っても、休みも残すところ後僅か。
これ以上の失敗は出来ない。
島牧と言えば、20年前の川の他にも、超有名河川もあって、万が一の時にはそこに行こうと。
そうすれば、全く知らない川に行って惨敗するよりは、多少なりとも可能性は高いだろうとの計算が働く。
陽次さんには、「今夜は多分……帰らないよ」とニヒルに言い残し、再びの車中泊を覚悟で早朝から気合を入れて飛び出した。
まずは札幌から小樽まで。
天気は快晴!
高速はすこぶる快適である。
小樽で降りるとそこからは延々と下道。
とはいえ、そこは北海道。
渋滞なんてものは、札幌市内以外では存在すらしない。
のんびりゆっくり。
昼前に着ければ上等ってな感じで車は走る。
小樽から1時間も走っただろうか?
突然道の脇にさくらんぼが売っていた。
田舎道にはよくある光景。
急ぐ旅でも無し、ちょっと覗いていこう。
そこで、佐藤錦と並んで売っていたのは、見たことも聞いたことも無かった真っ赤なさくらんぼ。
佐藤錦よりも200円高かった(笑)紅秀峰(べにしゅうほう)というブランドらしいのだが、これが、かの佐藤錦なんかよりも断然甘い!
佐藤錦ほどの爽やかな酸味も少ないから好みが分かれそうではあるが、2日間沢を歩きまくって疲れた体には最高に美味かった。
北海道の西北西の方に行くことがあったら、是非一度食べてみて欲しい(←私もどこで買ったのか、地名は分からんがな!)
紅秀峰を頬張りながら流していると……
海!
突然現れた紺碧の海!
いや、紺碧だけではなく、エメラルドグリーンとの2トーンに分かれた得も言われぬ美しさ。
そう。
これが島牧の海である。
目指す川はもうすぐ。
っと、その前にメシメシ。
腹が減っては……
で、ある。
が、探せど探せど食えるところがない。
後で聞いたところによると、この辺りの飯屋はみんな11時からだそうで、この時間はどっこも空いてない。
仕方ないので、少し通り過ぎた道の駅のレストランに入るも、そこも食事は11時から。
この時点で、あと40分以上もある。
困った顔をしていると、受付のおねーさんが、「15分待ってくれればご飯炊きますよ」。
なんという親切!
なんという気配り!
おねーさんの親切であり付いたメシがコレ!
ホタテ100円!
持ってけドロボー!
しかも新鮮!
超絶美味い!
ついでにホッケの開きも食ったのだが、こちらも、写真を撮り忘れるくらいに絶品だった。
北海道サイコー!これで魚が釣れれば言うことなし。ってことで、道の駅を後にし、目指す川に向かう。
ここは、本当に小さな川のそのまた支流だったりするのだが、20年前に遊んでくれたイワナたちの子孫は元気でいるのか?
車は途中から舗装が終わり、林道のような砂利道を進む。
ひたすら、ひたすら。
車止めの表示があるところまでひたすらに進んでいく。
途中、20年前に良い思いをした大堰堤を通り過ぎ(ここは夕方に責めよう)、更に奥へ奥へと。
やっとのことで到着した車止めの場所は、記憶と大きく違っていた。
『あれ? 昔はまだ奥に進めたんだっけ?』
確か、目指す沢は車の左手だったはずだが、下を流れる沢は右手にある。
しかも、沢と言っても、すっかり涸れ沢。
全くと言っていいほど水がない。
困ったが、ここで引き返す訳にも行かず、仕方がないので、沢ではなく、そこから降りられる本流に行く。
この流れ。
しかも……
こんな感じの原生林を縫って、降りていった先にある、貴重な貴重な流れ。
そこで!
ついに!
フィッシュオン!エメラルドグリーンの澄み切った流れから飛び出したのは、大きな尾鰭がピンピンに張った、美しい虹色。
豊富なエサが流れてくる川なのか、腹もパンパンに張り、丸々と太ったニジマスだった。
写真を撮った後は静かにリリース。
彼女は、悠然と元に流れに帰って行った。。。
大 満 足 !もうね。
マジで、これで帰ろうかと思ったくらいに満足しちゃったんだけど、その後、更にもう1尾追加し、イブニング(夕まずめ)に備えて、この場所は終了。
イブニングは先述した大堰堤。
実は、ここは20年前に来た時、巨大な魚体が虫を追いかけているのを見かけ、必死でフライを投げるも釣ることは出来ず、後日知り合いに言ったら、その知り合いが何と釣ってしまい、72㎝という巨大ニジマスの写真を見せつけられたという因縁の場所。
この20年。
何度も再訪を夢見ながらも、一人で来るには余りにも危険すぎる羆の出没地であり、北海道に来るたびに思い出しては、あのニジマスに思いを馳せていた流れ。
もちろん、彼がリリースした個体が生きている訳はないが、ここは、それだけの巨体に育つ環境であったことは間違いない。
脇に車を止め、堰堤に降りると、既に小魚たちのライズは始まっていた。
まだだ。
まだ。。。
大物が動き出すまで待たなければならない。
しかし、無常にも大物の気配はなく、西の空では、今にも夕日が沈もうとしていた。
仕方がなく、釣りを開始する。
結果から言えば、20年来の夢は訪れず、代わりに、上記のような美しいイワナやヤマメが遊んでくれた。
どちらも、普通に言えば全く不満の出るサイズではなく、それなりにたっぷりと堪能出来た。
今日で帰ろうか?
それとも車中で泊まって明日も粘るか?
充分じゃないかという想いはあるが、20年前の記憶が後ろ髪を引く。
引くがしかし、これで良かったのかも知れない。
とも思う。
本流でのニジマス。
堰堤でのイワナ。ヤマメ。
また、パンケヌシでのオショロコマも含めて全て。
この北海道という、日本が誇る大自然が生んだ素晴らしい天然の息吹。
その生命の力強さを感じさせてもらったこの3日間。
釣りというのは、ハンティングなどと同じくブラッディースポーツである。
それは、例え私のようにキャッチ&リリースであったとしても、何も変わず、一切の免罪符になどならない。
魚からすれば、普段の食事の場に突然現れた連続暴行魔であろう。
20年前にも大いに悩んだ。
悩んで悩んで悩んだ挙句、それでも止められない己を知り、どうせ私は酷い男だと居直った。
そう。
なんのことはない。
SMと同じだ。
SMと同じで、どうせ止められないのならば、せめて、誰にも理解されずとも、自分で自分にルールを作り、せめて自分に対してだけは真摯でいようと思う。
私はこれまでもこれからも、決して良い人にはなれない。
自分勝手で我儘な最低最悪の男だ。
だが、今日遊ばせてくれた大自然を相手にするように、これから出会う人々に対しても、自分なりには真摯でいたいと願う。
改めて、それを感じることが出来、充分に納得した上で、この日、竿をしまった。
札幌に向かう途中。
様々な光景が思い出された。
私の小指ほどしかないものから、40cmを越えるものまで、数多く釣れてくれたニジマス。
赤い斑点が美しいオショロコマ。
日本海に注ぐ川独特の、大きな白い斑点が特徴のアメマス系イワナ。
言わずと知れた渓の女王ヤマメ。
それら魚に限らず、何気なく咲いていた名も知らぬ花。
数々の動物たちの足跡。
札幌市内でゴミを漁り、すっかり人に慣れてしまった個体ではなく、厳しい大自然を生きる、誇り高いキタキツネも見ることが出来た。
20年ーー。
何一つ進歩していない自分に、半分呆れ、半分諦めて苦笑しながら、友人が待つ札幌を目指し、ハンドルを切った。
また来よう。
きっとーー。
またいつの日にか。
※今回の札幌でお世話になった全ての友人に捧げる。
堂山鉄心、大満足です!
ありがとうございました!